2019年1月4日金曜日

なぜ人間は五つの大陸で異なる発展をとげたのか



GUNS, GERMS, AND STEEL ――― 感想





著者ダイアモンドは「訳者あとがき」によると、進化生物学者である。ニューギニアでフィールドワークをしている時、現地のニューギニア人ヤリの質問から何故現社会では「持つ者」と「持たざる者」の格差がこうもあるのかという疑問を抱き、その後25年の長きにわたる研究からこの書を書き上げたと言う。



その研究は多分野の知識を必要としているが、あとがきによると、彼は「生理学で博士号を得たあと、分子生理学と進化生物学の二つの分野を専門に研究しているほか、分子生物学、遺伝子学、生物地理学、環境地理学、考古学、人類学、言語学についても詳しい。」らしい。しかしながら、この本は人類13千年の歴史を網羅し、ユーラシア大陸、アメリカ大陸、オーストラリア大陸、アフリカ大陸と扱う地域も膨大なものである。この時間的にも空間的にも、とてつもない量の情報をすべて深く均等に扱う事は並大抵のことではない―――、でしょう。



他の学者(James Blaut)がこの本を批評して、彼は「ユーラシア大陸」という言葉を簡単に扱っていると言っている。また、ダイアモンドの説に同調していても、彼の論調は弱いと指摘している学者もいる。過去を単純化していると。わたしは学者ではないし専門家でもないが、ところどころで、自説を強調するあまり、事実を単純化あるいは無視しているのでは、と感じるところがあった。



前述の「ユーラシア大陸」についても、この大陸はヨーロッパだけが存在しているのではない。イスラム社会、中国、ロシア、スカンジナビア諸国、等などがある。中国については一章を費やして記述しているが、ヨーロッパについての如くの深い洞察はない。ヨーロッパについてもスペインやオランダ、フランスなど、記述されている国は偏っている。



日本についても数か所で触れられている。その中で「日本は独自の文字カナを持っているのに未だに漢字を使っている。それは、漢字にステイタスを求めているからだ。」という記述があった。また、「日本は、日本語の話し言葉を表わすには問題がある中国発祥の文字の使用を未だにやめようとしていない。」とも。日本で漢字についてどれだけの学術書があるのかを知らないようだ。



この複雑な問題をこんな一言で表わしてほしくないものである。もちろん、わたしが日本人であるからこのことを指摘できるのかもしれない。が、ほかの部分でも、わたしには指摘できないが、もしかしたらこの程度の考えで書かれている個所があるかもしれないと邪推してしまう。











<彼のメイン理論>



人類の発展の必須要素・・・動植物の栽培化、家畜化(病原菌とその免疫を得られた)、



これにより、人口の稠密化を促す定住が可能になる



     →食糧生産に携わらない人を養える余力を得る

          王族と官僚・・・政治機構の発展

          職業軍人・・・征服戦争を継続・維持できる

          学者・・・文字によって記録を作成できる

情報の獲得・伝達(征服戦争を支える)

技術者・・・銃などの武器の生産を可能にする

      (鉄の埋蔵がある地域のみ)



政治機構と軍人、学者、技術者が相まって、他グループへの侵略、支配、統合を推し進め、また強大な勢力となる



これらの要素の発展により、より余力を得、スパイラル的に発達する。





<彼の仮説>



現代の社会はヨーロッパ人がアメリカ大陸、オーストラリア大陸、そしてアフリカ大陸の51%を征服しているが、この偏りはそれぞれの人々が暮らした環境の差異から来るものであり、決して人々の生物学的差異によるものではない。





<彼の証明方法>



社会は環境地理的および生物地理的影響下で発展してきていることを証明する。



基本的に、彼の理論の証明の根幹は、人類がそれぞれの場所に「いつ」定住したか、そしてそのそれぞれの場所が「何を持っていたか」ということ。そしてそこに到着した時点での「幸・不幸」、そしてその場所で所有できたものの「幸・不幸」で今の不平等が決定されているということである。



人類はおおよそ700万年前にサルから分岐した。その始まりはアフリカであった。100万年~50万年前にユーラシア大陸に移住。3~4万年前にオーストラリア・ニューギニアに移住。2万年前頃シベリアに到達。1万数千年前にベーリング海峡を渡りアラスカに到着。その後約1000年をかけてアメリカ大陸を縦断する。ここですべての大陸に人類が進出したことになる。(南極大陸は除く)。



約4万年前、クロマニヨン人が現れる。石器、釣り針、道具類や大型動物の狩猟、魚、鳥の狩猟すること、美意識、宗教意識、芸術的価値のある遺物の出土等から、ほぼ現在の人類の要素を備えていたと思われる。従って、クロマニヨンが現れる以前の人類はアフリカ、ユーラシア大陸には長く生息していたが、オーストラリア大陸に渡った時には、すでにクロマニヨンだった。



それぞれの大陸には大型動物がいたが、人類の進行によりオーストラリア大陸、アメリカ大陸の動物は絶滅した。人類を知らなかった動物は容易に人類によって殺戮されたからだ。しかし、アフリカ大陸やユーラシア大陸では、何万年もの進化の時間を動物は初期人類と共有してきたので、人間を警戒する能力が培われた。そのため絶滅を免れた。



→大型動物の絶滅(オーストラリア大陸・アメリカ大陸)は、家畜として飼いならす機会を人類から奪った。



家畜から得られる食糧、家畜からの労動力・輸送力、衣服となる皮革等などが得られない。家畜・人間の相互作用による病原菌、そしてその免疫力を得る機会を失った。



結論:人類が発展する為の要素の一つである大型動物の家畜化は、人類が大陸に移住した年代により「可能と不可能」の差異ができたのであり、そこに移住した人類の能力の問題ではなかった。





以上は、人類がそれぞれの大陸に「いつ」定住したのか、そしてその時の野生動物の状況および家畜化の話である。彼はこれによって、「家畜化」をできたかできなかったかは、そこに定住を果たしたヒトの能力ではなく、ただ環境によっている(大型草食哺乳動物が生息していなかった、生息していても家畜することが難しい種だったとか)ということを証明することを試みている。



次に「食糧生産」(栽培化)、病原菌の問題、鉄の問題、文字の問題を俎上にのせ、個々の問題も同様な方法によって説明する。つまり、例えば栽培化については栽培化できる植物が地域により「あるところ」と「ないところ」があり、その環境の問題だけにより、その場のヒトが発展できたかどうかが決まる。その場のヒトの能力に依っているのではないという風に。














あまりにも膨大な本なのですべてについて感想を書くことはできません。これでも、書きすぎと思うでしょ。



もうひとつ、関係がありそうでないような話ですが、数年前に「ネアンデルタール人とクロマニヨン人は遺伝子的にミックスしていないというのが学者間の定説であったが、実はミックスしていたという報告があった」との発見がありました。ネアンデルタール人は今の人類の祖先ではなく、クロマニヨン人から人類は進化しました。現在、アフリカ人以外の人は2~3%ほどの遺伝子がネアンデルタール人由来であるというのが定説です。



同時期に非常に近い種が同じ場所に住んでいて、ミックスしない訳はないし、ネアンデルタール人は絶滅したと言われているが、完全ということはあり得ないのだから、どこかに人類と違う「人類」が住んでいるかもしれないと、突然、あなたは「人間ではありませんよ。ちがう遺伝子が入っています。」という事が起こり得るかもと思っていました。



起こりましたネ。今では、他の「亜人類の遺伝子」も地域(アフリカとかアジア)によっていろいろ混雑していることがわかっています。非常に興味深いです。









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