題名通りイスラームの立場から見た世界史。今まで、「世界史」はイスラーム世界を無視してきたという著者の思いは納得できます。著者はアフガニスタン生まれで、アメリカで教育を受け、アメリカに移住しました。最近、非西洋世界の人がヨーロッパやアメリカで学び、英語で著作し、日本語に翻訳されるという本が増えてきたように思われます。
今までは、第三世界の人々は、世界的にはスポーツやエンターテイメントの分野での活躍が目立っていましたが、ようやく哲学とか文学とか科学とかの分野での躍進が期待できる時期に来たのだ…と思います。彼らは、西欧の論理を学んだ上での、自己の出自のアイデンティティを取り戻す…かのようです。
わたしが学んだ「世界史」は、十字軍とイスラーム世界の戦いの場面で、わずかにイスラームの言及があるばかりでした。そこにヨーロッパ以外の人々は存在していませんでした。著者は、ナポレオンがエジプトに遠征した時、英仏の闘争については詳細に語っているが、その時のエジプトの状況、民については何も語っていない、と記しています。
この本で、わたしの頭の中の空白部分が、ポツポツと埋められたような気がします。もちろん、ペルシャ帝国とかオスマントルコとかモンゴル帝国、ムガール帝国等のことは、学校の歴史の教科書に書かれていました。しかし、それは一つ一つ独立して点在する記憶であり、それが一つにまとまるという事はありませんでした。
イスラームは北アフリカからスペイン、そしてビザンティン帝国も支配下に納め、オーストリアまで突き進みました。東はインド、インドネシアなど東南アジアまで、またアフガニスタンまでもイスラームの国々だったのです。ヨーロッパ諸国がキリスト教を基盤とした国々の集まりだったように、ペルシャ、トルコ、モンゴル、インドネシア、などもイスラーム教を信仰する国々の巨大なエリアだったのです。その巨大な領域が、世界史からスッポリ抜け落ちているという事です。著者は、ヨーロッパを旅する人がいたら、その人は一つ一つの国については違った景色を味わう事ができるだろうが、ヨーロッパが醸し出す雰囲気は共通していると思っただろう、そして同じことがイスラームの国々についても言えるのだ、と書いています。
著者はアフガニスタンの人で、やはりイスラーム世界贔屓のところも見られますが、それはどこの人についても言える事。自分の国にプライドがあります。そこのところを加味しても、これからの世界の行方を考える上で、とても参考になる本だと思いました。
西欧から見たイスラーム世界を、ただ鵜呑みにしてはいられないと。わたしたち自身で世界を捉えるために、もう一方からの情報は貴重であると感じました。
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