『古代オリエントの宗教』(青木 健 著)を読んで。
「人類に何故宗教が必要であるのか」が、わたしの探究テーマの一つであります。『HUMAN』と言う本によりますと、「ヒトが集団生活を始めるにあたり宗教が軸となった」という事。つまり、血縁(DNA)集団から「他人」の集団に駒を進める時、何らかの「共通の信じるもの」が必要だったという訳です。
またさらに、国家としての体裁を整える時にも、統治する者の正統性を担保するために「宗教=神」が不可欠でありました。例えば、古代日本が朝鮮半島から外来の勢力に対抗するために強固な「国の概念」が必要でしたが、その時に編み出したのが「神道」です。
現在、「神は死んだ」と言われていますが、世界の勢力図で言いますと、「西欧(特にアメリカか?)プロテスタント」が力を持っているようです。もうすぐにイスラーム教徒が世界の4分の1を占めるようになるとも言われますが、何はともあれやはり主流は、「聖書」の世界観。そんなことから、この本を読んでみることにしました。
さて、
著者、青木氏は「聖書ストーリー」というものを基礎において、各古代オリエント、メソポタミアの地域に興った宗教を解説しています。その「聖書ストーリー」というものが、旧約聖書・新約聖書、+「何か(α)」という具合に、とても解りやすく定義されます。「あとがき」によりますと、早稲田大学の創造理工学部で行った講義がこの本の基のひとつという事。つまり、聴衆の理工系の「頭に」なにか因果関係のプロットが必要と、「聖書ストーリー」を軸にすることを思い立ったという事です。そのおかげか、内容はとてもスッキリしていて、わたしの頭でも理解可能でした。
例えば、
2世紀:ローマで成立したマルキオーン主義は旧約聖書を切り捨てた「新約聖書」の結集。
2~3世紀:地中海世界「原始キリスト教教会」は、「旧約聖書」+「新約聖書」の図式で確定。
3世紀:マーニー教は「新約聖書」+「マーニー教七聖典」
7~10世紀:ムハンマド・イスラームは「旧約聖書」+「新約聖書」+「クルアーン」
8~10世紀:シーア派イスラームは「旧約聖書」+「新約聖書」+「クルアーン」+「歴代シーア派イマームの言行録」
最終的に、サーサーン朝ペルシャ帝国の国教であったゾロアスター教が、創始者ザラスシュトラを「聖書ストーリー」の中の「預言者」であったという説を受け入れ、「聖書ストーリー」の東方全域の支配の完成となりました。
「聖書ストーリー」をユダヤ教の苦難の歴史までとするか、イエスが神の子であるとして完結するか、ムハンマドをエンドとするかは、各人の考え次第ですが、もうこれ以降の時期のエンディングは生まれ得ないであろうと言うのが著者の結論です。13世紀で「聖書ストーリー」は完結を見たという事になります。
神話が宗教になるには、神話と現実を結ぶ象徴が必要であります。イエスとかムハンマドとかザラスシュトラなど現実の(?)人物が。また、キリスト教というと往往にして西洋をイメージしてしまいますが、「聖書ストーリー」はメソポタミアで生まれたのであり、その点を抜きにして聖書を理解できないという事が重要かと。そしてその思想は、政治的権力者の支配する地域の位置関係にも影響されています。
概説なので一般的教養に終わっているとも言えますが、とにかく門外漢であるわたしにとっては、「聖書」を基にしたいろいろな宗教の位置関係がスッキリわかりました。
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