IS HE LIVING OR IS HE DEAD ?
MARK TWAINの短編小説の題名です。『THE COMPLETE SHORT STORIES OF
MARK TWAIN』の中の一編です。MARK TWAINの作品は、大好きで読んでいる訳ではありません。英語の勉強の一環として読んでいます。が、他の作品を読むよりは興味を持って読むことは出来ます。
MARK TWAINの生き方に興味があるのです。MARK TWAINは、一般的には子どもの読み物とか「オモシロ話」として受け取られていそうです。実際、童話や子供向けの「ほら話」などの本によく取り上げられていますから。『トムソーヤの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』などから、わたしの周りの人も、「ああ、あの童話を書いている作家。」といった感じの認識です。
しかし彼の作品は、もっと皮肉っぽいものです。話の筋が単純なので子供向けと思われているのだろうか、あるいは、日本語に翻訳されて紹介されている彼の作品が、少々毒気を抜かれているのだろうか。晩年の作品は、そんな彼のシニカルな面が強く表れてきています。実際、人間嫌いになって、ひとり静かに死んでいったようです。
EUが公用語を決める時に、英語が第一公用語になりました。その時、英国のブレア首相が、「英語を徐々にわかりやすく直していく…」、と演説したという話が、まことしやかにネット上に蔓延しました。例えば、「カと発音するCは、Kに変える」というような。CANDYならKANDYのように。また、thの発音はなくすとか、完了形をなくすとか。等々。
わたしは、「うまくできているなあ…、ほんとにそうだ、そうするべきだ。」と大賛成。でも、その後、そのネットの話のネタがMARK TWAINの原稿によっていると知りました。その時から、MARK TWAINがホントはどんな人なのだろうかと興味を持ったのです。
『THE COMPLETE SHORT STORIES OF MARK TWAIN』の作品は、お話は単純で単語も難しくはなく、英語の勉強には向いていると思います。が、単語が古いということはあります。そして、簡単な物語は、読んでいてフンフンと読み流してしまいそうですが、一筋縄ではいきませんよ。まるで落語のようにオチのある話もあります。
もうひとつ彼の作品が単純と思われるのは、時代のせいではないでしょうか。彼の生きた時代は1835年から1910年。彼が著術をしていた時は、まだ19世紀末の洗礼を受けていなかったのです。まだまだ資本主義社会も成熟しておらず、人々の苦悩も複雑化していない頃、と思うのですが。
『IS HE LIVING OR IS HE DEAD ?』は、貧乏な才能ある若い画家達が自分たちの作品が売れないのは、世間の人が死んだ画家の作品を珍重するからだと考え、仲間の画家のひとりの死亡をでっちあげて、その人の作品を売り出そうというもの。その画家の名前がなんと「ミレー」です。フランスの有名な画家。このお話はフランスが舞台で、昔の小説にありがちな高級リゾートホテルの客の会話という態を取っています。
聞き役の紳士と語り役の紳士。その語り役の紳士が、画家の仲間の一人です。これは今まで誰にも言わず、秘密にしてきたが、もう話しても良いだろうと偶然同じテーブルに坐った紳士に語り始めます。彼らは、ひとりの仲間の死をでっちあげて、彼の描いた作品の値を吊りあげて来た。世間の人々は、作品の本当の価値ではなく、ちがう要素で作品を売買するということですね。そして、彼らは大金持ちになり、こんな高級ホテルにも宿泊できるようになったのだというお話。オチは、「さっき、目の前を通った紳士がミレーなのですよ。」というもの。
MARK TWAINの活躍した時代は、まだ現代の苦悩を知らなかった。ダダイズムも不条理演劇もシュールリアリスムもまだなかった。これらのムーヴメントは大衆の愚かさを揶揄したのでした。しかし、大衆の力は強い。そんな揶揄など吹き飛ばしてしまいました。「芸術」などという物は、もはや存在しない。あるのは、コマーシャリズムだけです。大衆に受け入れられないものは、作品としての価値はないのです。
MARK TWAINは、そんな世の中をシニカルに先取りしました。
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