『消しゴム』
アラン・ロブ=グリエは、わたしの青春です。この本は2013年に買っていますが、読めていませんでした。
20代の頃に流行ったヌーヴォー・ロマンの旗手であるロブ=グリエを初めて知ったのは、映画『去年マリエンバードで』です。アラン・レネの映画ですが、脚本を担当していました。
見ましたが、わけのわからない映画でした。同様に『消しゴム』もわけのわからない小説です。話の筋は単純です。いわゆる犯罪小説。殺人者と被害者と捜査官が登場します。
探偵小説の態を借りながら、単なる犯人追及ものではないお話を今までも読んできました。別役実の『探偵物語』やレイ・ブラッドベリの『死ぬときはひとりぽっち』等など。どれも興味深い。
今回の興味深い点は、時間の流れが通常ではないこと。お話は、殺人の捜査を命令された捜査官が街にやって来て、その内容がわかるまでの一日の話ですが、犯人、被害者、捜査官、その他の人々が、時系列に関係なくそれぞれの話を語ります。
もうひとつは、殺されたデュポンは実は殺されていなかったということ。殺されていない、ただ逃亡しただけのデュポンは、すぐ現れますからネタバレではありません。殺されていないデュポンの殺人者を探す捜査官、殺害を失敗した犯人はデュポンを再び探し続け、殺されそうになった本人は、皆に殺されたと思い込ませて逃亡しようと試みる。
なんかワクワクする筋立てですが、ワクワクはしませんよ。話はゆるやかに流れ、単なる日常という感じです。
わからないのは、題名の『消しゴム』です。捜査官は、犯人捜しで街中を歩き回るのですが、文房具屋があると寄り道をして、消しゴムを買い求めるのです。彼の消しゴムへの要求はちょっと高度で、思い通りの消しゴムは手に入らないのですが、ケチな奴だと思われないように要らない消しゴムを買ってしまうのです。
きっと最後にその謎が解き明かされると思っていたのですが、ならず。ほったらかしです。解説を読んでみると、
消しゴムを求めても彼の希望は満たされない。「消しゴム」とは、この社会でけっして満たされることのない人間的な欲望とその挫折の比喩という解釈が可能です。あるいは、物にあふれる世界のとりたてて意味をもたない物だから、小説のタイトルは「消しゴム」でも、「四つ切りトマト」でも、何でもよかったのかもしれません。
また、ゴルドマンやブルース・モリセットの解釈も紹介していますが、文学者でないわたしはどうでもいいです。そんなものかと思って、この「うだうだ」の小説を楽しめました
最後にロブ=グリエの小説がその後の文学に与えた影響についてが、述べられています。『消しゴム』について言えば、世界の多くの小説に影響を与えているそうです。着想のヒントを与えていると。
「謎解きを宙吊りにする謎解きミステリー」というパターンを提示しました。多くの現代作家が、純文学とエンタテインメントの区別なく、このパターンを使って現代を描く試みをしています。
安部公房の『燃えつきた地図』、ポール・オースターの『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』の三部作など。また、ニューウェーブSFにもその影響を及ぼしているとか。
また、日本文学では、ロブ=グリエの文学を通過したものとして、筒井康隆の『虚人たち』、倉橋由美子の『暗い旅』など。
ふむふむ、わたしの好きなパターンだと納得。
最後に「宿命的結末」がありますが、それには触れないことにします。
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