『謎の独立国家……ソマリランド』について以前書いた時に、最後に、こう書きました。
著者は「ソマリランドのディアスポラになってしまった。」と告白しています。それで、わたしはルワンダのディアスポラ達のことを思い出してしまいました。それから、著者が、ルポ中に常用していた「カート」についても興味あります。そんなお話はまた次回に…ということに。
つい最近、こんな記事を目にしました。ひとつは、「『カート』、イエメンに影」。4月1日の朝日新聞の記事です。カートとは、覚醒効果のある、植物の葉です。もうひとつは、「楽しむ大麻 合法化の波」です。同じく4月16日の記事。―――趣味で吸う娯楽大麻の販売がコロラド州で1月、全米で初めて解禁された。6月ごろにはワシントン州が続く。という、記事。
カートに関する記事では、「カートと呼ばれる覚醒効果のある葉の過剰消費が、人々と社会をむしばんでいる。」という論調。大麻のアメリカでの解禁を告げる記事では、「若い頃に大麻を常習していたオバマ大統領は、ニューヨーカー誌のインタビューで『たばこと似た悪癖と考えている。アルコール以上に危険だとは思わない。』と、両州での合法化を容認。」と、けっこう寛容に扱っています。同じ「覚醒効果のある植物」であるのに、記事での取り扱いのこの違いはどうよ、と。
それで、「カート」について、書こうと思います。
『謎の独立国家……ソマリランド (そして、海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア)』の著者である高野秀行さんは、冒険家のようです。人の行かないところに出かけて行ってレポートあるいはドキュメントをものにするのが、生き甲斐の様子。ソマリランド及び内戦状態であるソマリアの首都やその周辺をルポルタージュするのにたいへんな時を過ごします。
ソマリ人との文化風習の違いなどでインタビューが上手くいかない状況で、強い味方は、「カート」。彼の言によりますと、「カートとは、我々のアルコールだ。」と言うこと。つまり、イスラムの国では、お酒は禁止です。アルコールばかりでなくカフェインなども。その変わりをするのが「カート」。ソマリランドでは、毎晩のように皆がカート・パーティを開いています。といっても、ただカートを持ち寄ってたむろし…、そうそう、著者によると我々の「居酒屋」状況。そこで、ワイワイいろいろなことが話され、討論されると言うわけ。酒飲み話か。故に、彼の格好の情報収集場所に。
また、情報収集の手段だけでなく、彼自身にも「カートがなければ、やっていけない。」という環境。毎晩、カートをむしゃむしゃ口に頬張り、それをコーラで流し込み、仕事に励みます。カートがお酒で、コーラが「おつまみ」なんだとか。以前、エジプトに行った時(ツアーです)、エジプトの航空会社でした。機内でアルコールが提供されないと飛行機に乗る前に言い渡されました。持ち込むのは禁止ではないので、空港内で買ってくださいと。わたしは、ワインを買って持ち込みました。その他、レストランでも外国人には提供するところと、まったく旅行者にも提供しないところがありました。もう「なんでやネン」という心境でした。でも、これでわかりました。彼らには「カート」があったんだ!
イスラム原理主義の「アル・シャバーブ」が戦闘で地域を占領すると、彼らは厳しいイスラムの戒律を住民に押しつけます。カートもアル・シャバーブは、最初禁止しました。しかし、その禁止だけは長く押し付けられなかったと、著者は書いています。どの国でも禁酒法は成立しませんよね。
カートの弊害は、便秘になることだそうです。彼も便秘に苦しむが、どうしてもカートをやめることができない。それで、らくだの乳を飲んでやり過ごそうとします。それでも、うまくいかない。それで、友達に聞いたところ、「らくだの乳は効かない。牛乳を飲むんだ。」と教えられ、試してみると、一発で出たとのこと。
彼が書いている「カートについて」は、こんなユーモア溢れるものです。わたしもこの本を読んでいなければ、「カート、イエメンに影」という記事を鵜呑みにして、「カート=悪」という公式を導き出していたでしょう。実際、どちらが正しいとはわかりませんが、カートは、コカインや覚醒剤などの国際的な禁止薬物とは違います。嗜好品としてイエメンでも法律で認められています。カート自体を悪いものと決め付けず、貧困とか飢饉とか、食料不足との関係でどうかということを討論すべきと思います。実際、そう言う問題から免れている先進国では、お上品な「娯楽大麻」が合法化されているのですから。
にほんブログ村
0 件のコメント:
コメントを投稿