『いにしえの魔術』 アルジャーノン・ブラックウッド著
英国幻想文学です。ブラックウッドは、1869年に英国ケント州に生まれます。1900年代前後に活躍した作家と言えるでしょう。
日本では、江戸川乱歩が好んでこの作家を紹介しています。『芥川龍之介選・英米怪異・幻想譚』にも一遍紹介されており、芥川の好きな作家でもありました。その他、「ご存知」ラヴクラフトもブラックウッドの影響を受け、真ク・リトル・リトル神話の構想に至ります。
彼の作品には、心霊医術家ジョン・サイレンス博士が主人公のものがたくさんあります。怪奇現象を精神医学から分析するもの。なんだか子供騙しのようなタイトルですが、たぶん、当時はフロイトが世に出てきたころと重なるので、その影響かと推測―――どうでしょうか?
本書は、5編の短編から成っています。何か既読感があります。いろいろな怪奇アンソロジーで読んでいるのかもしれません。それだけ、この分野では著名なのでしょう。
本のタイトルにもなっている『いにしえの魔術』は、旅人がふと迷い込んだ町の異様な秘密を描いています。『獣の谷』は自然に対する畏怖、『エジプトの奥底に』はエジプトの神秘に囚われたイギリス人の話、『秘宝伝授』はスイスの自然の中で授かる「教え」のようなもの、『神の狼』はカナダを舞台に未知の生き物に対峙する恐怖が書かれています。
このように彼の作品は、主に自然に対峙した時の畏れからなるのではないでしょうか。ドイツや東欧の怪奇小説も、同様に自然に対峙しています。日本の民話や不思議な話も同じと思われますが、英米の怪奇・幻想小説は自然への対峙の仕方が少々異なるのではと考えています。
自然そのものに対する「ふしぎ」ではなく、その奥に潜む「異種の存在」ですかね。表面に現れない人類に対抗する大いなる存在、そんなところがラヴクラフトの「真ク・リトル・リトル神話」に現れているのではと思います.
『エジプトの奥底へ』は、この中でも長い一遍で、エジプトの古代に秘められた存在が、迫って来るさまに心躍ります。
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