英語の学習方法については、明治の頃からいろいろな意見があり紛争は未だに続いているようです。
明治時代から「西洋の文化や知識」を学ぶための実用英語が重視され、一部の小学校で英語が教えられました。これに対し、英文学者岡倉由三郎は、日本語を習得する途上のこどもにとって弊害になると批判しました。現代にも通じる議論ですね。
英語学習推進派は、主に経済との関連で動いているようです。英語が話せないと経済のグローバル化に乗り遅れるとの思いでしょうか。高度成長途上の1950年代には、日本経営者団体連盟が「役に立つ英語」を要望しました。2000年には経済団体連合会が小学校からの英語学習を提言。
しかし、「英語の学習開始が早ければ早いほど良い」という主張は実証されていません。米ペンシルベニア大学教育学大学院のバトラー後藤裕子准教授は、「幼くして英語圏に移住した子には当てはまるとする研究結果が少なくないが、日本語環境では『良質かつ大量の英語のインプット』がない限り、むやみに早期に導入してもあまり効果はない」と述べています。
『「日本人と英語」の社会学』という本の書評を見ました。寺沢拓敬氏の著作です。「なぜ英語教育論は誤解だらけなのか」という副題が付されています。彼は緻密なデータを基にして英語学習方法に関して言われている言説を否定します。まず「グローバル化の進展によって英語の必要性はますます高まる」と言うことについて、彼は、2000年代後半には英語の必要性は減少さえしていると言います。英語ができればいい仕事に就けるとか収入がアップするということも、同じように間違いであるとデータで示します。また、「日本人はアジアどころか世界でもっとも英語が下手である」とか「女性は英語学習への意欲が高い」という言説も間違いであると。そのような間違ったイメージに基づいて英語教育政策が進められるのは極めて思慮のない行為でしょう。
現在の状況として、2011年度に外国語活動(一応外国語活動ということでどの外国語でもよいのですが、英語です)が小学5~6年生で必修化されました。文部省は東京五輪・パラリンピックを視野に入れ、20年度までに「活動」を3~4年生に早め、5年生からは成績をつける教科とする方針です。
このような経緯を考えると「英語学習とはなんぞや」と思ってしまいます。わたしの考えは、「学校とは学問をする場所であり生活の手段を教えるところではない」というもの。保険体育や技術家庭などもそう思います。それらは単に技術を習得しているということではありません。
新聞紙上でいろいろな専門家や学者先生が、英語学習について意見を述べていますが、今まででただ一人、わたしが賛成する意見を述べている人がいました。関東学院大学教授金森強さんです。彼は、小学校で英語を教えることに不賛成である訳ではありません。その意義をこのように言っています。
「小学生に英語の表現を教えリピートさせる…、これが英語を教える事とは言えません。教室で外国語指導助手(ALT)と関わり、彼等と話せたという事が重要である。」
つまり、英語を話すとちゃんと言っていることが伝わるという事だと思います。日本人同士が英語を話して意味が通じあっても、なにか現実味がありませんが、外国の人と話して自分の言っていることが相手に伝わると、「オオッ、」と思ってしまいます。わたしの英語学習の原点でもあります。
「それから日本語と英語の違いを自分で理解すること。」
日本と違う言語があり、違う文化が存在するのだという「気づき」ですか。
しかし、金森さんは専門家の先生達から、「あなたがやりたいことは『英語の授業』ではない。」と言われたそうです。国際理解や言葉の教育なら、英語でやらなくともいいだろうと。彼は、日本語でなく外国が間に入るから、自分で気付くチャンスになると言います。
小学校で英語教育をするということは、以上の意味で大切なのであって、決して「小学校から始めたらこどもたちの英語力が一気にあがると言うことではない。そんな幻想は捨てた方が良い。」と。
もうひとつ彼は興味深いことを言っています。
「英米だけでなく様々な国から来たALTがいて、彼等に接してコミュニケーションをとることが子どもたちにとって重要だ。」
NHKの番組でこう発言しましたが、「おまえは子どもに偽物の英語を聞かせろと言うのか」という抗議の電話がたくさん来たそうです。実際、世界で英語を使っているのは英米人だけではありません。「隣の学校のALTは白人なのにうちの中学は違う」と抗議する親もいるそうです。これでは、もともとの「なぜ英語を学ぶか」という意味に反します。つまり、英語を通しての国際理解です。世界にはいろいろな人種がいる。いろいろな文化がある。そしてそれは等しく認められなければならない。多様性を認めること、それが「グローバル化」と言うことではないのでしょうか。
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