2015年10月16日金曜日

上海滞在記  ②


前回、都心から郊外に住居を移したと書きました。今日は、引越をした直後のお話です。

 

先ずわたしがしたことは、お店探しです。わたしの必需品の「ビールと水」を確保するため。ビールはわたしの生活に必ず必要ですがなくても死ぬわけではありません。しかし、水となるとなくてはならぬものです。上海では水道水は飲めません。料理にも使えません。お皿を洗ったりはしますが、洗ったあと置いておくと乾いた水のあとに黒い汚れが残ります。水道水の中の不純物です。顔は水道水で洗いますが、歯磨き後に口をゆすぐ時はミネラルウオーターを使います。洗顔後、最後にはミネラルウオーターで目を洗います。「こんな贅沢なことをしてゴメンナサイ。」という気分で。

 

上海のオフィースや通常の家庭には、大きなミネラルウオーターのボトルが器機の上に設置されていて、その装置には蛇口が二つ付いており、お水とお湯が出るようになっています。最近では日本でも水をデリバリーしてくれる会社がありますが、上海ではそれが日常でした。お水がなくなりそうな時は、ユーザーはそのようなデリバリーをしてくれる会社に電話をし、配達を頼みます。すると20リットルくらいの水が入ったボトルを二個くらい抱えて配達人が現れます。

 

わたしと友達が営んでいるオフィースも同様なシステムを利用しています。わたしは、友達に自宅にも水を配達してもらえないものかと言うと、彼女は「彼らがどんなに傲慢かわかっているのか。」と言います。つまり、彼女がデリバリーの会社に配達を頼む時、一回で素直に水が来ることはありません。また、約束の時間通りに来ることも皆無です。受付の人は「なんのかんの」と文句を言います。配達を頼む電話をした後の彼女はいつも不機嫌でした。上海では事がスムースに運ぶことはめったにありません。わたしの友達でさえ、あらゆる人を不機嫌にさせる天才なのに「その彼女をや」です。

 

彼女は言いました。あなたにそんな電話ができるわけはないと。たとえ電話ができたとしても、それはあなたを悩ませるだけだと。それに、配達してくれた時、あなたが家にいるとは限らないじゃないかと。いつ来るのかわからないのだから。結局彼女はわたしの代わりにデリバリーの電話を掛けてくれる気はないのだと悟ってあきらめました。

 



 

と言うわけで、わたしはお水を求めて近所の散策を開始したのです。わたしが引っ越したところは、一般の中国人が住む団地でした。日本人のためのレジデンスに住めば、幼稚園あり、ジムはあり、お店はありですべて至れり尽くせりなのですが、経済的にそうはいきません。

 

中国の団地は超マンモスです。たぶん400世帯くらいは優に住んでいると思います。その上、ひとつの住居に一世帯とも限りませんから。その大きな団地は通常塀で囲われています。そして、表と裏にゲートがあります。そこに守衛さんが常駐しています。だいたい、表のゲートには「便利屋」と書かれているコンビニエンスストアのようなものがあります。わたしの部屋は裏口に近かったのでコンビニエンスストアはありませんでした。しかしラッキーなことに、通りを隔てた向かい側に「便利屋」はありました。表門にあるコンビニに比べると貧相なものでしたが。とにかく、お水は確保することができました。

 

しばらくはそのお店で水とビールを確保していたのですが、そのお店の暗さに気持ちが塞ぎうんざりしてきました。店は見たところ夫婦で営まれていたようです。その二人もお店同様暗い感じでした。お店が煌々と照らされているのは、日本だけの現象なのですが、その頃はそんな風に自分を慰める気分にもならなかったのです。それで徐々にちょっと遠くではありますが、表ゲートのコンビニに買い物に行くようになりました。そこは日本のコンビニ同様の店構えで、店員さんも普通です(中国人の普通と言う意味ですが。彼らは絶対謝謝に(シェー、シェー)とは言わない)。気さくなおばさんも一人いました。

 

こうして2~3本のビールと4リットル入りのミネラルウオーターを買うのが日課となりました。ご想像通り大変疲れます。それからもうひとつ、わたしの中に絶えず「恐れ」があるのです。緊急事態が起きたらどうしようかという事。お水を買いに行けなくなったらどうしようと。で、ある日閃きました。お水を凍らしておいたらどうだろうかと。500lmか600mlのペットボトルに水を小分けして、冷凍庫に保存しておくのです。そして、常時5~6本のお水を冷凍庫に確保することに決めました。

 

 

そしてついにその日が来たのです。緊急事態発生です。風邪をひきました。疲れと寝不足のせいでしょうか。熱がひどくてベッドから起き上がれない状況です。もちろん、外出もできません。

 

保存していた冷凍のペットボトルの水を水道水で解凍しようと思い、実際そうし始めましたが…、「なんだ、馬鹿じゃないの」と気付きます。水で解かさなくてもなくてもわたしの頭の上に置けばいいんじゃないかと。わたしの熱で解けるよと。これが「一石二鳥」でなくして何が「一石二鳥」なんだって。

 

凍ったペットボトルを額の上に置いてベッドに寝転がると、突然笑いの発作に襲われました。驚くほどの大声で笑い始めたのです。映画のワンシーンが頭に浮かびました。「わたしはベッドに寝ている。体中をシーツでグルグル巻きして。私の眼は大きく見開いている。うつろに。口には体温計をくわえて。そして、わたしの額の上に凍ったペットボトルが突っ立っているのだ。」

 

映画のタイトルは何か。

 

The Life Is So Ridiculous !!!









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