わたしの友達は、わたしがひとりでアパートに暮らしていると寂しいだろうと、日本語がわかる人、または英語を話せる人を紹介してくれます。実際のところ、わたしはひとりが好きなので不自由は感じていませんが、彼女の気遣いには感謝です。
その中で、上海にひとりで暮らし日本語教師をしている30歳前後の女性がいました。彼女は数年前に上海に語学留学のためにやって来ました。上海の大学に1年通って日本に戻ったのですが、半年もしないうちにまた舞い戻りました。どうしてかと尋ねると、それは韓国人のボーイフレンドが上海にいたからだとフランクに答えました。そして上海に戻ってすぐ別れたと。
それから中国政府の日本語教師の養成機関に入って、詳しいことは忘れましたが多分2~3ヶ月で資格を取得したという事です。それからここで日本語教師として働いています。彼女は、中国人は決して教えてくれないであろうと思われることを教えてくれます。たとえば、レストランのテーブルの上に置いてある紙ナプキンは使わない方が良いとか、アパートの契約は半年にしといた方が良いとかいったようなことです。
テーブルの上に置いてある紙ナプキンは、どうも大量に仕入れられており、従業員が食堂の片隅のテーブルで一枚ずつ折りたたんでいるのです。わたしも目撃しましたが、とても衛生的な状況とは言えません。アパートの方は、住んでいるうちに故障しているところが見つかったり、どうしても我慢できないところがわかったりするので契約は短期間にし、いつでも引越せる状態にしておくことが重要とか。彼女は、今では三か月契約にしているそうです。しかし、彼女はもう中国の風習に慣れたようで、違和感なく上海生活を楽しんでいる様子でした。
わたしは慣れません。わたしが上海に暮らすようになった頃、中国人はなんて親切な人々だろうと思っていました。わたしと友達は二人で仕事を始めたのですが、何かイベントが入った時、二人では到底できないことがあります。そんな時、友達が彼女の友達に声をかけると、誰かが手助けをしてくれるのです。何の報酬も求めずに。手伝ってくれる人の中には、たった一回しか会ったことのない人もいました。友達は、昼食くらいは奢っていたようです。わたしにはこの事がとても奇異にうつりました。長年の友達ならいざ知らず、ほんとに一回だけアクセサリーの作り方を教えた生徒も来るのですから。
ある時この謎が解けました。これは日本の警句「情けは人の為ならず」だったのです。もっと、その何倍もリアルなものです。彼らはどこにでも顔を出して恩を売る……、なんて言うととてもイヤラシク聞こえますが、それはここでは日常です。時に、手伝ってくれた人が、化粧品のセールスを始めます。すると、友達はその人から化粧品の一揃えを購入します。しかし、その購入金額は、普通よりディスカウントされていますから、お互いに「よかった。よかった。」ということになるのです。そして友達は、その化粧品を買いたいと思っている人を彼女に紹介します。その人も、欲しい化粧品を安く手に入れることができたとハッピーになるのです。こうして人の絆の連鎖が起こっていくというシステム。
危険なこともあります。一回しかアクセサリーの作り方を教えていないのに、手伝いに来たという人たち。彼らの目的は、わたしたちの会社が大きくなったらなにか見返りを期待しているとか、彼ら自身が同じような会社を作るため、そのノウハウを盗み取ろうとしているのです。実際経験したお話をひとつ。2~3人の若者がよく手伝いに来ていましたが、ある日友達が、「彼らはもう来ないね。」と言います。なぜかと問うと、「もう自分たちの店、作ったからね。」と。イベントのワークショップで、わたしがアクセサリーを作っているところを観察し、技法を持って行ってしまいました。
まあこんなことは日常茶飯事で、会社の中で「同じ仕事」をアルバイトでしている人もいます。つまり、ホームページを立ち上げる会社なら、その会社の器機を使って、会社には内緒で自分のクライアントの仕事をしてしまうというようなこと。最終的には、会社のお客さんを引き抜いて自分の会社を作ってしまいますよ。
そして日本語教師の彼女も、このサイクルの中にどっぷり浸かっています。こまめにいろいろなところに顔を出し、また人々の為に何か仲介したりしています。そしていろんな情報を彼等から仕入れ、日本語家庭教師(学校には内緒の内職)の仕事を得たりしています。この間も、彼女の中国人の生徒がアパートを引っ越すと言うから、手伝いに行くと言っていました。わたしは元来の出不精も相まって、どうしても無理です。
彼女は韓国人のボーイフレンドと別れてから、周りに「結婚したい。結婚したい。」と触れ回っています。そうしたら中国人の皆が「お見合いしろ、お見合いしろ」と。彼女は今、中国の男性とお見合いしまくっております。その話はまたの機会に。
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