2013年8月13日火曜日

『古代オリエントの宗教』  青木 健



著者は「聖書ストーリー」というものを基礎において、各古代オリエント、メソポタミアの地域に興った宗教を解説している。その「聖書ストーリー」というものが、旧約聖書・新約聖書、+「何か」という具合に定義されていて、とてもわかりやすい。あとがきで、早稲田大学の創造理工学部で行った講義がこの本の基のひとつなので、理工系の「頭に」なにか因果関係のプロットが必要と、「聖書ストーリー」を軸にすることを思い立ったと書かれている。そのおかげか、内容はとてもスッキリしている。



例えば、

��世紀:ローマで成立したマルキオーン主義は旧約聖書を切り捨てて「新約聖書」の結集。

��~3世紀:地中海世界「原始キリスト教教会」は、「旧約聖書」+「新約聖書」の図式で確定。

��世紀:マーニー教は「新約聖書」+「マーニー教七聖典」

��~10世紀:ムハンマド・イスラームは「旧約聖書」+「新約聖書」+「クルアーン」

��~10世紀:シーア派イスラームは「旧約聖書」+「新約聖書」+「クルアーン」+「歴代シーア派イマームの言行録」



その他、ミトラ信仰やゾロアスター教が東方社会に興ったが、それぞれキリスト教やイスラーム教に同化・吸収される。



最終的に、サーサーン朝ペルシャ帝国の国教であったゾロアスター教が、創始者ザラスシュトラを「聖書ストーリー」の中の預言者であったという説を受け入れた時が、「聖書ストーリー」の東方全域の支配の完成とされる。そして、13世紀、十全なイスラーム法とイスラーム神学の体系を備えたスナン派イスラームが出現し、預言者ムハンマドがアッラーの最後の使徒であると確定し、もういかなる「アナザーストーリー」も「サブストーリー」も付け加えられる可能性がなくなった時、「聖書ストーリー」は完成された。イエス以降、ムハンマド以降はもういかなる更新もないのである。



「聖書ストーリー」をユダヤ教の苦難の歴史までとするか、イエスが神の子であるとして完結するか、ムハンマドをエンドとするかは、各人の考え次第であるが、もうこれ以上のエンディングは生まれ得ないであろうと言うのが結論だ。そして神話が宗教になるには、神話と現実を結ぶ象徴が必要であるらしい。イエスとかムハンマドとかザラスシュトラなど現実の(?)人物が。また、キリスト教というと往往にして西洋をイメージしてしまうが、「聖書ストーリー」はメソポタミアで生まれたのであり、その点を抜きにして聖書を理解できないと思う。そしてその思想は、政治的権力者の支配する地域の位置関係にも影響されているようだ。





概説なので一般的知識に終わっているとも言えるが、とにかく門外漢であるわたしにとっては、いろいろな宗教の位置関係がスッキリわかった。





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