『英語と旅する』
第1章 南アフリカ・ケープタウン
��. グランダム (3)
受付に行くと、わたしの学生証と何かのリストをチェックして、「はい、5番教室です。」という。そういうシステムなんだと思いながら、5番教室に行く。生徒は6人ほどいた。マックス、一教室6人までと聞いていたのでフルメンバーだ。先生がやってきた。金髪の長い髪を束ねた背の高いハンサムな先生だった。28歳のジェイムスというアメリカ人の先生と後で知った。
“Have you ever met me?”
彼がわたしにたずねた。彼のmet の発音がマットと聞こえたので、
“What does マット mean?”
と聞くと、
“meet, met, met”
とニコリともせずに言う。「なんだ、こいつ」と思ったが、「met の発音がわからなかった」と言うと、「フン。YesかNoか」とかぶせた。ここで、はじめて「フレンドリーではない先生」が存在するのだとわかる。この間も生徒の反応はなし。前の学校の生徒と先生の和気あいあいとした関係はここではなさそうに思われた。
今回の学校は、若い生徒が多かったので、若さ故の軽いうわさ話も飛び交っていた。噂によると、ジェイムスは相当意地悪な先生らしい。教室で泣いた生徒もいると聞いた。わたしも一度その餌食になったことがある。付加疑問の練習でジェイムスは、「文を言うから、すぐに付加疑問を付け加えるように」と言った。例えば、You are a teacher.とジェイムスが言うと、生徒はaren’t you?と続けるのだ。順番に生徒に当てていったが、わたしだけが抜かされた。その後もずっと順番を抜かされた。他の生徒も、段々不思議そうにわたしの方を見る。先生の苛めにあったのである。それで、初日の授業の時に生徒たちがジェイムスの前でリラックスしていない理由がわかった。
授業の最後にジェイムスが言う決り文句があった。「今度会う時まで僕の名前を覚えておくように。生徒はなんでもすぐ忘れるからな。」というもの。その日も、彼は教室のドアの前でそう言った。だから、わたしも”You, too!”と言ってやった。たいていの先生は、「今日も良い一日でありますように」とか言う。そんな時、生徒は「You, too!」と返す。だから、この場面でも、You, too! は有効だろうと考えた。ジェームスは一瞬立ち止まって何か言いたそうだったが、そのままドアを開けて出ていった。生徒たちは驚いてわたしの顔を見詰めたが、そんなことわたしも気がつかないふりをして去った。その後も、この先生との相性は最悪だった。原因のひとつには、わたしが「英会話」教室なのに、真剣に会話をしてしまうという悪い癖にもある。この癖は、良く働く事もあるが、たいていは悪く働く。他の生徒のように、「英語を学ぶために、ただ会話をしているのだ」と割り切ればいいのにと思う。
つづく・・・
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