上海-beggars。彼らを路上でよく見かけたのはわたしがここ上海に来た2003年から2004年の初めぐらいだった。2004年の初めに日本に戻って、また帰ってきた時、彼らは路上からほぼ姿をけしていた。今でも極「たまーに」見かけることはあるが。
その頃、わたしは上海のど真ん中に住んでいた。ブランドショップや有名デパートやステキなブティックが立ち並んでいる。そのメイン通りを歩いて隣の地下鉄の駅まで歩くことがよくあった。その間に優に20人を超えるbeggarsを見かけた。どこの都市にもbeggarsはいる。わたしが海外で見かけたbeggarsはみんな元気で強く強引だった。お金をくれるのは当然といった様子で手を出してくる。わたしたちより返って溌剌とし陽気でさえある。でも、ここ上海では様子が違う。彼らは一言もしゃべらない。彼らはわたしたちと顔を合わそうとさえしない。お金を入れてもらうためのカンをただ置いているだけだ。
そこで当時、わたしは上海-beggarsを分類した。4種類になった。
その1
彼らはたいていとても年寄りだ。多分男性。でも、実際には年寄りか男性かは判断できない。なぜなら彼らは地面にうつぶせになってただ寝転んでいるから顔がわからないのだ。彼らはたいてい黒っぽい長い上着を着、地面に顔をつけ片方の手を前方に目いっぱい伸ばしている。そして、その手に小さなカンをしっかり持っているのだ。そして黒いビニールのごみ袋のようなものにはいった大きな荷物をもっているが、それはロープでしっかり彼らの腰に結び付けられている。それは長いロープなので袋と彼の間は1メートル以上離れているのだ。まるでそこで力尽きた行き倒れといった情況設定。ある意味、キュートだ。
その2
彼らは男性の場合も女性の場合もある。彼らの顔は蒼く雰囲気は暗く赤ちゃんや、時にはほんのちいちゃな子供を抱いている。そして道に正座している。彼らは絶対道行く人の顔は見ない。まったくと言っていい程動かない。彼らが抱いている赤ちゃんたちも全然動かないし泣きもしない。時折、彼らは白い目であったり、顔に酷い傷跡を持っていたりする。
その3
初めは彼らがbeggarsとはわたしは気付かなかった。彼らもただ道にうつむいて座っている。違うのは彼らの前に文字の書かれた大きな紙が置かれているのだ。だから、彼らは占師かなにかで、道行く人を占っているのだと思っていた。実際、2~3人の人がその紙を読むために立ち止まったりしている。ある時Jに彼らは何をしているのか聞いてみた。「占い師なの?」―――「違うよ!あの紙には彼らの生い立ちが書いてあるね。どんなに酷いことがあったか書いてある。親が死んでお金がないから学校も行けないとか、会社が潰れてお金がないとか、そんなことね。」
一度、6~7人もの人が群がっているのを見たことがある。そこには相当興味深い話が書かれていたのだろうと想像する。
その4
最後はもっとも悲惨なbeggarsだ。小さな男のたち(1回だけ女の子も見た)。彼らの足は奇妙に折れ曲がっているのだ。たいていは両足とも。そしてその足を折り曲げてヨガの修験者のように背中に背負っている。どうしてそんなかっこうをしているか初めは不思議に思ったが後で気づいた。彼らには動かない足を自分の背中に背負っている方が動き回りやすいのだ。彼らはゴムのパンツをはき、手には靴を履いている。お尻と手を使って這い回っているのだ(文字通り這いまわっている。そんな子供たちが街の真ん中のメインストリートに10mぐらい毎にいるところを想像してみて頂きたい。)。そして上半身はたいてい裸。冬でもTシャツ1枚程度だ。わたしは、彼らが車が行き交うメインストリートをそのやり方で横断しているのを見たこともあるし、地下鉄の階段を降りているところも見かけた。
もちろん、彼らの情況は惨い。でも、他のbeggarsと比べると、少なくとも彼らは動いている。話している。一度、彼らの内の小さな男の子が仲間の男の子と楽しそうにおしゃべりしているのを見た。ある意味彼らは他のbeggarsと比べてノーマルだ。
友達に尋ねてみた。「警察が彼らを見たら、彼らを保護して施設に入れてくれるとかしないの?」―――「しないね。」
もうひとつ。彼らが上半身裸なのは彼らの背中の傷跡とかを見せるためだ。他のbeggarsも大きな傷跡とかやけどの跡などを強調するために上半身裸でいることがある。
わたしのこのような観察を他の人に話しても彼らは信じない。たいていはこう言う。
「えッ、そんなにたくさんbeggarsがいたっけ?5番目の違うbeggarを探してみようっと。」―――もちろん、わたしがシリアスな方法で(雰囲気で)話さないせいかもしれないが。
そして、beggarsは突然いなくなった。多分、上海万博のための政府対策の一環ではと推測する。
追記
この話を日本に帰った時友達に話したことがある。彼も「僕なら5番目の種類のbeggarsを見つけられるよ。」と言った。そして、去年、上海に遊びに来た。beggarsはもうほとんど見かけない時だ。その以前に住んでいたあたりのメインストリートを案内した。そこには大きな歩道橋がある。歩道橋にはエスカレーターも付いている。その歩道橋の上から写真を取ると綺麗だよ、と言うと彼はトントンと階段を上って行った。わたしは後からゆっくり上っていった。上に着くと、片隅にbeggarが居た。彼は地べたに座っていた。上半身裸。両腕なし。上半身と顔中にひどいケロイド。
わたしが彼に追いつくと、彼は黙ってあらぬ方を見つめている。彼が振り向くと顔が蒼白。
「見たの?」
「見・た・・・。」
それから、1時間ほど彼は一言もしゃべらなかった。
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