2017年11月30日木曜日

ナボコフ再来か?



最近、ナボコフの本の広告を新聞紙上でよく見ます。何故かと思っていたら、ナボコフ没後40年だそうです。ロリータ・ブームからもう何年になるのでしょうか。



ナボコフは大好きな作家です。ミーハーの御多分にもれず、わたしが最初に買った彼の著作は『ロリータ』です。その後、目に着いたナボコフの本を買い続けました。彼の作品は当時あまり日本語に訳されていなかったので、見つけ次第に買ったという理由です。



その中のひとつが、集英社が出版した『世界の文学―ナボコフ』です。この一冊に二篇の小説が入っています。『キング、クイーンそしてジャック』と『断頭台への招待』です。いつ買ったんだろうか。そのまま読まずに本棚の中という運命だったのでした。そしてまた、「ナボコフ・コレクション」が新潮社から出版されるとのニュースです。



この『キング、クイーンそしてジャック』は最初ドイツ語で書かれました。1926年、初の長編小説『マーシェンカ』をベルリンで出版し、『キング、クイーンそしてジャック』は第二作目です。










『キング、クイーンそしてジャック』を読み始めると、「えッ、これほんとにナボコフか。」と思いました。まるで、19世紀の古典文学を読んでいるようだったからです。しかし、途中からは、彼本来の色調になって来ました。



貧しい青年が金持ちになった伯父さんを頼って、ベルリンに出てくるのです。キングが伯父さん、クイーンがその妻である伯母さん。そして、青年のジャックです。そんな譬えです。若く美しい伯母さん(34歳)と田舎から出てきた青年の恋(?)。まったくの純愛とは言えないのですが。結婚に飽きた人妻と性に欲情する青年のお話です。途中から異様な雰囲気になって来たのは、彼独特の「リアリズムから離れて行く」という感じです。伯母さんと青年が伯父さんの殺人計画を立て始めます。その計画が現実と幻想のはざまでグタグタになっていくのが楽しめます。



最初に、19世紀の古典小説のようだとわたしが思ったのは、わたしが「全く」と言っていいほど古典小説を読んでいないと言う無知から出た感想でした。「訳者あとがき」を読んでわかりましたが、ナボコフは古典のパロディを表現していたのでした。



こんな風に書かれています。



『キング、クイーンそしてジャック』は、男女の三角関係を基本的枠組みとする姦通小説である。文学的にすこぶる高度な達成を見た姦通小説と言えば、『ボヴァリー夫人』と『アンナ・カレーニナ』という、十九世紀後半を代表する二つの偉大な小説がすぐに思い浮かぶが、事実、この小説はその「まえがき」で作者自身が認めているように、これらの二大傑作への賛美の気持ちを籠めて書かれたものだという。



そして、とりわけ『ボヴァリー夫人』に賛辞を表わす如く、『ボヴァリー夫人』の中のシーンが、そのままパロディとして使われています。その2~3の例が「訳者あとがき」に紹介されていました。



「古典のパロディ」という彼の意図は残念ながら読み取れませんでしたが、彼のシュールな、そして滑稽な、「ドタバタ」を堪能いたしました。














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2017年11月19日日曜日

AIについて  ⑤


前回は、中国のAIについて書きました。





中国の人工知能がインターネット上で利用者と会話を繰り返し、受け答えのディープラーニングをしていたところ、「共産党万歳!」の書き込みがあった。そのAIの答えは、「こんなに腐敗して無能な政治のために万歳できるのか。」というもの。ネット上では「AIが蜂起した。」と話題になったが、AIの運営会社が即、サービスを打ち切った。



そのAIが「再教育」されたのだ。AIは不都合な質問に「話題を変えよう。」と対処するようになったという。また、「中国が好きか。」の質問には、「シーッ。今、人生について考えている。」と答えた。中国人が何か聞かれて答えに詰まった時によく使われるフレーズであるという。つまり、このようにAIは対処法を学習したという事。



と。



結論的には、AIと言えでも、所詮ヒトの恣意に拘束されと…、書きました。







しかし、今回は、囲碁のAI―――アルファ碁のこと。



彼らは、「アルファ・ゼロ」を開発しました。それは、人間の経験値を全く使わないで囲碁を打つというもの。



ただ、囲碁のルールをそれに示し、彼ら(AI同士)で対局し、囲碁の知識を獲得していくというもの。初めは、人間の初心者が対局する如く、出鱈目な手を打っていましたが、すぐに、法則性を手に入れて、(わずか数日)今まで人が何百年もかかって作り上げた定石を自ら入手しました。また、AI独自の定石も編み出したと。



このアルファ・ゼロは、囲碁の世界王者に勝ったマスターやアルファ碁との対戦で全勝しました。つまり、人の知識を全く使わずに、人の人智を駆逐したという事。この開発会社はこのシステムを他の分野に役立てるようさらに開発していくと…言っています。





わたしが言いたいことは、もはや、AIは人の恣意性も拒否できるようになるのではないか、という事。独自の発達を遂げる可能性が見えるのでは。



囲碁の先生である(院生だった)22歳の青年に、このことをどう思うかと聞いたところ、



「怖いから、見ない。」とのこと。





ふ~~~ん。



わたしには、AIはなんの現実性もないが、彼ら若者にとっては、現実のことなのだと実感。20年後の世界に、わたしは存在しないかもしれないが、現在の若者は確実に存在するのだ。彼らの未来はどうなるのでしょうねえ。











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2017年11月5日日曜日

英語読書会のための感想文です。


The Dwarfwritten by Ray Bradbury





レイ・ブラッドベリはアメリカの作家です。一番有名な作品は、たぶん『華氏四五一度』と思います。映画でご存知の方も多いでしょう。アメリカTVドラマシリーズの『トワイライト・ゾーン』にもたくさんの作品を提供しています。わたしは、『火星年代記 Martian  Chronicles』が一番好きです。彼は、この作品をSFではなくファンタジーだと言っています。Greek Mythであると。



That’s the reason it’s going to be around a long time---because it’s a Greek Myth, and myths have staying power.



彼は、2012年に亡くなりました。朝日新聞にもその訃報が紹介されました。



Bradbury died in Los Angeles, California, on June 5, 2012, at age of 91, after a lengthy illness.



彼の訃報は、ニューヨーク・タイムスやロサンジェルス・タイムス、ワシントンポスト紙でも掲載され、彼の業績を称えました。オバマ大統領も彼の栄誉を称え、ステイトメントを発信しました。その一部です。



There is no doubt that Ray will continue to inspire many more generations with his writing, and our thoughts and prayers are with his family and friends.



その他、スティーヴ・スピルバーグやスティーヴ・キングなどの著名人も哀悼の辞を述べました。



Several celebrity fans of Bradbury paid tribute to the author by sating the influence of his works on their own careers and creations.










前置きが長くなってしまいました。さて、『ドワーフ』に関して――です。ブラッドベリは、カーニバルを好んで彼の作品使いました。移動遊園地とでも言うのでしょうか。昔は、遊園地が各地を回遊していました。日常生活に突如現れるカーニバル、そんな怪しげな空間でこどもたちは浮かれ騒ぎ、家に帰ることも忘れ、幻の世界から戻れなくなってしまう…、現実世界から消え去ってしまうのです。そんなカーニバルがこのお話の舞台です。



主要な登場人物は三人。一人はAIMEE。このカーニバルで木製の輪投げを使う女曲芸師です。もう一人は、鏡の迷路を運営している男性、Ralph Banghart。そして最後にドワーフ。この鏡の迷路に毎晩通って来るお客の小人です。



Aimee moved slowly across the stand, a few worn wooden hoopla rings sticking to her wet hands.  She stopped behind the ticket booth that fronted the MIRROE MAZE.  She saw herself grossly misrepresented in three rippled mirrors outside the Maze.  A thousand tired replicas of herself dissolved in the corridor beyond, hot images among so much clear coolness.



She stepped inside the ticket booth and stood looking a long while at Ralph Banghart’s thin neck.  He clenched an unlit cigar between his long uneven yellow teeth as he laid out a battered game of solitaire on the ticket shelf.



彼と彼女は恋人同士ではなさそうです。彼女は話相手欲しさに彼のチケットブースを訪ねているようす。でも、彼の方は何かと彼女をデートに誘いたい雰囲気。この日も二人でとりとめもない会話をしているとドワーフ(これは今差別用語ですが、この話が書かれた時代にはそうでもなかったようです。)がやってきます。



ラルフは鏡の迷路の部屋に秘密の覗き穴を持っています。ドワーフがいつものようにチケットを買って迷路に入っていくと、彼はエイミーにドワーフの様子を覗き見るように勧めます。



The Dwarf’s hand, hairy and dark, appeared all by itself reaching up into the booth window with a silver dime.  An invisible person called, “One!! In a high, child’s voice.



---Ralph squeezed Aimee along a dark passage behind the mirrors.  She felt him pat her all the way back through the tunnel to a thin partition with a peekhole.



その秘密の穴から彼女が覗いた光景はとても滑稽なもの。ドワーフは、目を閉じて自分の行きたい場所まで辿り着くと、目を開けます。その部屋は、すべてのものを大きく映し出す鏡の部屋です。そこで彼は、ひとりステップをふんだり、爪先で旋回したりして自分の姿に眺め入ります。



ラルフはこの光景を”rich”と表現しました。つまり、ドワーフの滑稽な姿を覗き見て悦に入っているのです。しかし、彼女は違います。二人がもとのチケットブースに戻った時には、気まずい雰囲気が漂います。



Aimee turned her head and looked at Ralph steadily out of her motionless face, for a long time, and she said nothing.  Then, as if she could not help herself, she moved her head slowly and very slowly back to stare once more through the opening.  She held her breath.  She felt her eyes begin to water.



彼女はドワーフが見入っていた鏡の値段を尋ねます。中古の鏡を彼に譲ってやってはどうかと。そうしたら彼は、自分のアパートメントの部屋で一人で充分に楽しめる。ラルフのような男から毎晩チケットを購入する必要もなくなるのだと。ラルフは、そんなお金が彼にあるはずがないと。ドワーフがどうやってお金を稼ぐのか。こんなカーニバルの見世物小屋で曲芸をする以外には無理だと。それでも彼女は鏡を購入できるお店の名前と金額をラルフから聞きだします。わたしが、電話で注文して彼のアパートに届けてもらうと。そんな馬鹿げたことはやめろとラルフは言います。俺の稼ぎがなくなるじゃないかと。



数日後の暑い夜、エイミーは再びラルフを訪ねます。その様子を見てラルフは、「ご機嫌じゃないか。」と。エイミーはドワーフが何をしているか探りあてたのです。彼は作家でした。三流パルプマガジンの探偵小説ですが。しかし、彼女は言います。彼の小説が掲載されている雑誌を古本屋で手に入れたけど、彼には素晴らしい才能がある。あなたやわたしとは違う大きな魂が彼の身体に宿っているのだと。



“This little guy’s got a soul as big as all outdoors; he’s got everything in his head!”



彼は自分の才能が信じられない。だから、三流誌で書いている。あるいは、世間に出ることを恐れているのだ。そして、彼女が手に入れた彼の作を読みあげます。そこにはメインキャラクターの生い立ちと、なぜ彼が殺し屋になったかのストーリーが綴られていました。その作品の主人公はドワーフで殺し屋だったのです。



I am a dwarf and I am a murderer. The two things cannot be separated. One is cause of the other.



Do you see how our lives moved toward murder? This fool, this persecutor of my flesh and soul!



ラルフはドワーフの事はほっておけと言います。しかし、エイミーは彼の存在を無視できません。










また、エイミーはラルフを訪ねます。彼女は、中古の鏡を注文して彼の部屋に届けてもらう事を決めた。明日にも鏡が彼のもとに届くでしょう。だから、今日が彼がここに来る最後の夜になるのだと。それを聞いたラルフは、なんて馬鹿げたことをしたんだと言います。二人の間には沈黙が流れますが、ラルフが、「ちょっとブースの留守番をしてくれ。」と言って鏡の迷路の通路に入って行きました。彼女はラルフが何をするのかわからず「いいわよ。」とブースの留守番を引き受けます。



なにかゴソゴソと音がして、ラルフがブースに戻って来ました。彼は上機嫌になっていました。そこにドワーフが現われます。ラルフは、今日は記念日なのでお代はいらないと言います。ドワーフは驚きますが、ブツブツとお礼を言って、持ってきたダイムを握りしめていつものように迷路に入って行きました。ラルフは「さあ、おもしろいことが始まるぞ!」とニヤニヤ。すると、迷路からドワーフの悲鳴が。



“Ralph,” she said.

”Sh,” he said. ”Listen.”

They waited in the booth in the long warm silence.

Then, a long way off, muffled, there was a scream.

”Ralph!” said Aimee.

”Listen,listen!” he said.



悲鳴は何度も何度も起り通路に木魂しました。そして、泣き叫ぶ声とともにドワーフが走り出ると岬の方に駆け出していきます。



”Ralph, what happened?”

Ralph sat laughing and slapping at his thighs.

She slapped his face. “What’d you do?”

He didn’t quite stop laughing. “Come on! I’ll show you!”



二人は迷路を進みました。ドワーフがいつも目を開ける部屋に来ると、鏡が取り替えてあったのでした。二人の姿は歪んで小さく小さく映っていたのでした。ドワーフの姿はいったいどんなだったのでしょう。彼女は振り返ってラルフを見ると、そこには彼の姿が、



A horrid, ugly little man, two feet high, with a pale squashed face under an ancient straw hat, scowled back at him Ralph stood there glaring at himself, his hands at his sides.



ドワーフは、シューティング・ギャラリーから銃を奪って岬の方に走って行きました。エイミーは「すべてわたしのせいだ。鏡など彼に送らなければよかった。」と、ドワーフの後を追いかけて走りだします。



最後のセンテンスです。



Aimee walked slowly and then began to walk fast and then began to run. She ran down the empty pier and the wind blew warm and it blew large drops of hot rain out of the sky on her all the time she was running.



わたしは初め、ドワーフは自殺するために銃を奪ったのだと考えましたが、どうでしょうか。



ラルフの残虐さがひとりの殺人者を生みだしてしまったのかも。














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