2021年4月8日木曜日

日本の文学界で「探偵小説」から「推理小説」に変わる時の本格ミステリ作家です。

 



『方壺園』

 

「ミステリ短編傑作選」とありますが、本格ミステリではありません。作者は、陳瞬臣です。以前、中国文学の『愉楽』という本と出会い、中国文学に興味が湧いてきたのですが、中国の本がなかなか日本語に訳されません(上海にいた時、いつもの癖で本屋さん巡りをしていたのですが、中国の本は漢字ばかりで⦅当然の事ですが⦆、こんな本をよく読めるなあと思っていました。)。

 

しかし最近、中国SFが流行りだしているようで、時に新聞広告で見かけます。それで、この本も中国の作家の本かと思ったら、大間違い。日本の作家でした。わたしの見識不足です。超・有名な人だったようなのです(神戸生まれ)。

 

昭和30年代後半、日本において「探偵小説」から「推理小説」に変わる時に出てきた作家で、その時には同じく松本清張や二木悦子、笹沢沙佐保、都筑道夫、西村京太郎等々がデビューしました。

 



 

本は一部、二部に分かれています。第一部は、1962年発刊された中央公論社の「第一作品集」をそのまま収録しています。第二部は、第3短編集『紅蓮亭の狂女』から3篇が収められています。全ての作品が「密室殺人」の謎解きです。

 

 

さて、冒頭で「本格ミステリ」だはないと書きました。それは、密室殺人のプロットはホントに見事に仕掛けられ、謎が解かれるのですが、どうもそれがメインテーマではないような。アマゾンの書評をパラパラと読んでいたら、ある人が「人情話」と評していました。わたしには、人情話という感じはしませんが。

 

しかし、このミステリは警察官とか探偵と言った類の人が出てこないのです。たまたまそこに居た人とかが真相を暴きます。が、犯人が捕まることはありません。犯人が自殺した後に真相がわかるとか、もう病死寸前で犯人と名指しすることなく終焉するとか、何年も後に事件を知った人が、謎解きをするとか……、そんなような事です。

 

これは、なんでしょう?共通することは、殺された人が、とんでもない極悪非道な人だという事。殺人者は、それに耐えきれず、あるいはプライドをひどく傷つけられたという事で犯行を犯します。

 

なので、「謎解きをする」というよりも、事件がおこった 経緯を描写したかったのか、それとも事件の背後にある「おどろおどろしさ」を書きたかったのか。ところどころ、江戸川乱歩を思い出します。最後に収められている『紅蓮亭の狂女』は、その傾向が多大に認められ、怪奇小説のよう。圧巻です。

 

最後に、同期の綺羅星のような作家の中で、「当時のミステリ作家が取れる大きな文学賞、江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞、直木賞のすべてを取っているのは、陳舜臣ただ一人である。」という情報を得ました。こんなことも、ミステリというよりも「小説」の方に傾いている…と言えるかも。

 

本人は、ミステリ作家であることに矜持を持っていたようですが。





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