2013年9月28日土曜日

J.G. Ballard ―― The Drowned Giant 『溺れた巨人』



英語による「読書会らしきもの」のクラスを持っていると以前書きました。次回はわたしが選んだ小編を皆で読むことになっています。それが、JGバラードの『溺れた巨人』です。自分が選んだものを皆に読んでもらうと言うのは、想像以上になにか罪悪感と「不安な感 情」をもたらします。つまり、このような内容の本を皆に読ませても良かったのだろうか…という感情です。強制ですからね。

 

と言う訳で、不安な日々でしたが、そのうち二人から、「面白かった」という感想をもらい、ひと安心です。読書会はまだ開かれておりませんので、まだ、何を言われるかは、わからないのですけどね。でも、彼女たちがおっしゃるには、「poponさんが薦めなければ、こんな感じの本は一生読まなかったでしょうからね。」です。

 

バラードは一般的にはあまり知られていないようですが、彼が亡くなった2009年には、朝日新聞が特集を組んだほどです。彼の2~3の作品は映画化もされています。スピルバーグの『太陽の帝国』は見る気にもなりませんが、クローネンバーグの『クラッシュ』は2回ほど見ました。

 

 

JG・バラードはわたしの大好きな作家です。高校生の頃、『時間都市』を読んで虜になってしまいました。続いて『時間の墓標』を読み進み、その後は、翻訳された本を買い漁る日々です。英語の原文で読めるようになってからは、このThe Best Short Stories of J.G. BallardRunning Wild を読みました。

 

わたしが最初に読んだ本、『時間都市』と『時間の墓標』は、日本の題名で原題は違います。Billenium Terminal Beach です。日本語で「時間」と訳されたように、彼の関心は「時」です。それから崩壊。『沈んだ世界』The Drowned Worldや『燃える世界』The Crystal World、『結晶世界』The Burning Worldは、破滅三部作とも呼ばれていますが、人類の発展、故に破滅していく様子が「時」というものに絡められて、とても美しく語られています。そして、彼の近年の作品で三部作と言われているものに『クラッシュ』、『コンクリート・アイランド』、『ハイ‐ライズ』があります。それこそ、高度に発達した社会で、どこか崩れて行く人間性を表現している…と思います。つまり、わたしの感想は「時間」と「崩壊」と「テクノロジーによる人間崩壊」が、彼の表現したい事ではないのかと言うことです。

 

この『溺れた巨人』も、嵐の後に海岸に打ち上げられた巨人の死体が海岸に放置され、崩壊して行く様を観察者としての主人公が、ただ見守っている内容です。ここでも、「時」と「崩壊」と「人間性」が絡み合っています。マッコウクジラのように巨大な人間の死体を前にして、人々ははじめ恐れ慄きます。が、それも束の間の事。人々は、巨人の死体の上で、観光気分。若者たちは、死体の上で焚き火をしたり、遊園地の如く走りまわります。そして、最後には、まだ海岸に彼の名残りが存在しているにもかかわらず、巨人が存在したということをも忘れ去られます。街のそこここには、サメの顎骨の飾り物の如く、巨人の肋骨やなめした皮膚が飾られます。それも、巨人のものとは自覚されずに。巨人は衝撃と共に海岸に現われて、時の過ぎゆくままに忘れ去られて行く――そして、人々は、日々の生活に暮れるのみ。

 

観察者としての主人公は、この巨人の崩壊の過程と共にこの巨人を見物に来た人々をも観察し描写します。

 

彼は同僚から巨人を監視してレポートを書く任務を押し付けられます。同僚は彼が、そうすることが好きだと見抜いているから。彼も「そうだ」と認めます。そして、こんな風に表わされています。

 

Perhaps they sensed my particular interest in the case, and it was certainly true that I was eager to return to the beach.  There was nothing necrophilic about this, for to all intents the giant was still alive for me, indeed more alive than many of the people watching him.----------,Whatever else in our lives might be open to doubt, the giant, dead or alive, existed in an absolute sense, providing a glimpse into a world of similar absolutes of which we spectators on the beach were such imperfect and puny copies.

 

もう一ヵ所、心に残った文章があります。

 

This accelerated postmortem development of the giant’s character, as if the latent elements of his personality had gained sufficient momentum during his life to discharge themselves in a brief final resume, continued to fascinate me. It marked the beginning of the giant’s surrender to that all-demanding system of time in which the rest of humanity finds itself, and of which, like the million twisted ripples of a fragmented whirlpool, our finite lives are the concluding products.

 

 

引用が長くなりました。とにかく、良い文章が読めて、楽しい時を過ごせました。






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