2021年1月23日土曜日

この本のキャッチコピーは、「知られざる名アンソロジー、ここに蘇る!」

 


『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』

 

芥川龍之介の本はあまり読んだことがありません。何か民族話(遠野物語のよう)か童話の様で、あまりわたしの感覚に合わないという感じでした。

 

しかし、この本を読んで彼の作品はともかく、経歴に興味を持ちました。彼の仕事は、初め翻訳家だったのですね。英米の文学を翻訳していたのです。しかも、彼の興味を引く作家がわたしの大好きな作家とダブっていました。

 

ポー、ワイルド、ローゼンブラット、ピアス、ブラックウッド、そして特にラヴクラフトです。また、わたしの趣味ではないHG・ウェルズも彼の嫌いな作家でした。彼の作品もこのアンソロジーに入っていますが。

 

 

この本は、芥川龍之介が編集した本から、また編者が編みなおしたものです。元の本は、芥川龍之介が、旧制高等学校の生徒のために編んだ英語教科書の副読本です。1924年から25年にかけて編まれたThe Modern Series of English Literature 8巻。

 

当時の高校生は英語を原文で読んでいたのですね。この元の本を読んでみたいものです。



内容は、短編が20点、芥川龍之介自身が翻訳した作品が2点、芥川龍之介自身の作品が1点です。元の本は全8巻です。そして、それぞれの巻は、幻想的なものとか、幽霊譚とか怪奇物とかに分かれています。

 

最初のオスカー・ワイルド著『身勝手な巨人』は、読んだ気がします。小学生の頃は、「不思議な話」の類の本ばかり読んでいましたから。次のダンセイニ卿の『追い剥ぎ』も読んだ気がします、悪い事ばかりしている追い剥ぎにも、人情とか友情があるというとても興味深く、不条理なお話でした。

 

『張り合う幽霊』は、幽霊譚に入りますが、お話は怖いと言うよりもナンセンスな小噺。『スランバブル嬢と閉所恐怖症』は、私が好きなアルジャーノン・ブラックウッドの作品で、当時には珍しい(まだ閉所恐怖症は一般的に知られていない。)題材を扱っています。

 

わたしが一番呻ってしまったのは、最後の作品の『ささやかな忠義の行い』。それぞれの作品には、初めに解説が1ページ載っています。それによりますと、「本作には、今日の人権意識に照らせば不当、不適切と思われる語句や表現が散見されるが、作品が発表された当時の時代背景と文学的価値にかんがみ、本書にも採録することとした。」と、あります。

 

救いのない暴力や犯罪を描いたロマン・ノワールが、評価されるのは1940年代に入ってからだそうで、この作品はその先駆けとして、芥川龍之介が時代の潮流を先読みしていたとも言えるとの解説です。

 

このアンソロジーの中では、一番長文で読み応えがあります。舞台はニューヨーク。金持ちの中国人商人の本当に身勝手な行動。マイノリティの存在を(この作品では女性)虫けらの如くに殺してしまう感性。そして、その周りの人々もそのことに何が悪いのかも気付いていません。

 

この傾向は、今も変わりないけど……、などと思いつつ。

 

 

最後に、芥川龍之介自身もこれらの作品に影響を受けたようで、彼の作品と関連付けての解説もあります。芥川龍之介の作品に興味のある方は、その点でも読む価値があるのではないでしょうか。




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