2014年7月6日日曜日

『働かないアリに意義がある』と言う本


「働かないアリに意義がある」と言う本を読んだ。(アリのうち)7割は休んでいて、1割は一生働かない・・・というのがキャッチコピーである。あまりの軽さに胡散臭さを感じていたが、何回も目にするうちに試しに読んでみようかと思い買ってしまった。内容はコピーの軽さに比べて、少々難しい。生物学の問題である。最新の。こんなキャッチコピー誰が付けたんだろうね。確かにセンセーショナルで人の目を引き付けるが、売らんかな、の意図が少々見える。と言ってこのコピーがなかったら、わたしもアリの生物学的な話の本なんて買わなかっただろうナ。本自体については、読んで良かったと思う。

 

さて、なぜ7割のアリが休んでいるのかという理由は、働きたくなくて休んでいるのではなく、個々によって働こうと感じる「時」が違うからだということだ。個々の感性の問題。人の社会は社長とか組織のリーダーがいて、誰がどのように働くかという命令系統があるが、アリの社会は仕事全体を見渡して指令を出しているものはいない。そのために全てのアリが働くと不測の事態の時、例えばでっかい砂糖の塊が見つかったとか、その事態に対処するアリがいなくなる。そこで、そういう場合に「働こうか」とやっと感じるアリが動き始めるということだ。つまり仕事に対する反応が敏感なものから働き始め、鈍いものが続く。

 

アリはこの非効率な形態を選んで生き延びてきた。実際、研究によると働き続けるアリばかりの場合は、その時は効率よくアリのコロニーは発展していくが、ある時から衰退の方向に傾いて行く。つまり、あるひとつの仕事(例えば卵に風を送る等の)は適度なところでやめなければいけないところを、過剰過ぎて生活環境が正常に保てなくなる事態になるからだ。働く事に敏感でないアリがいれば、適度にサボり始める。だから能率の悪い規格外のメンバーをコロニーに抱え込んでいることが必要という事になる。

 

 

 

だから、何がいつ役に立つかは誰にもわからないということだね。今は役に立たなくても、それが役に立つ時が来るかもしれないということなんだ。今は役に立たない「小さなネジ」をどれだけネジを小さくできるかという楽しみ(自己満足)のためだけで作り続けることも将来極小ネジが必要という時が来れば役に立つ。そんなオタクの多い日本で作り出された変なものが世界の進歩に貢献していることも・・・アリなのだ。

 

 

 

もうひとつ「1割は一生働かない」ということについては、「社会的生物には血縁選択が働いている」と言う事実で説明されている。

 

生物は自分の利益になる行動をする。つまり如何に自分のDNAを数多く残すかということ。そして、その利益をあげる行動のみが進化していく。そしてコロニーを作るという選択がなされる。個体が自らの欲を消してコロニーのために働くのも、コロニー自体の利益が自らの利益に直結しているからだ。自分自身ではなくともその子孫(自分の遺伝子をたくさん持っているもの)が恩恵を受ける。しかしながら、「個体が貢献してコストを負担することでまわっている社会」というシステムが常態化すると、そのシステムを利用し社会的コストの負担をせずに自らの利益だけを貪る裏切り者が出てくる。働かなくても周りに依存することが可能になるからだ。一人で暮らしていてはそうはいかない。「メンバーが利他的に振る舞う社会では、フリーライダーが現れる」と著者は表現している。

 

 

進化においては、いかに多くの自分の遺伝子コピーを残すかが最大の問題だと述べた。今、一部のアリは働きアリが無性生殖していることが明らかになっている。単為生殖で自分のクローンを産むことによりコロニー全体が自分なのだ。しかし、無性生殖できるにもかかわらず、女王アリはオスとつがい有性生殖している。これは自分の遺伝子を半分失うということだ。何故そんな事をするのか。

 

コロニー全てが同じ遺伝子を受け継いでいるということは、同じ性質を受け継いでいるということだ。例えば伝染病が繁栄した場合、同質の個体は一斉に死滅してしまう。また、先に述べた通り、労働刺激に対する反応の違いがコロニーを維持するのに必要だ。同質個体では同じ反応をしてしまう。このような点で、コロニーには適度な異質性が必要と言うことだ。

 


 

 

アリの話と人間社会の話を同一視は出来ないが、現在の世界のグローバル化も全世界が単一化していくという意味で脆さを露呈しつつある。経済のグローバリズムは地域ごとに分かれていた経済圏を一つにしつつある。今までは、一つの地域経済が傾き始めると、その地域だけが滅びるかあるいは他の経済圏との関連で立ち直ることができた。例えば、ギリシャの経済が傾いていってもギリシャの通貨だけが安くなり、他の富裕なヨーロッパ圏の国が、例えばドイツ人が、たくさん観光にやって来てギリシャが立ち直る等とか。しかし、今は同じユーロ圏であることにより、ギリシャの失敗が他のユーロ圏にも飛び火することになった。

 

また、利己的なチーター(社会的コストの負担をせずに自らの利益だけを追求する裏切り者・cheater)がある社会に増えるとその社会が食べつくされるまで繁殖していき、その社会は死滅する。しかし、世界が一つになれば食い止める枠がなくなり全世界が滅びるまでその勢いは止まらない。モノの生産と流通を伴わないヘッジファンドなどにひとつになった経済圏全体の経済基盤が弱められてしまうとか。

 

 

 

生物は自己の適応度をあげるために日々進化している。これが生物の存在目的だ。最後にとても興味深い一文があった。

 

『「完全な適応」が生じれば進化は終わる。全能の生物が生まれれば、その生物しかいなくなるからだ。』

 

と言うことである。そのような生物は絶対生まれないしその理由もあると著者は述べているが、その答えはこの本では述べられていなかった。人類も「神への道(完全な個体)」を求めつつ進化し続けていくのかあ~~~。





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