2017年9月9日土曜日

『第四間氷期』  安部公房著




安部公房は大好きな作家で、若い時分からよく読んでいました。彼が亡くなって、未発表の短編集が出版され、即買いましたが、未だ読んでいません。もう彼の新作は出版されないと思うとさみしい…。



彼の本を何冊持っているのかと本棚を見てみると、11冊ありました。一番最近読んだものは『砂の女』です。蟻地獄のような砂の家に閉じ込められて、世話をやく女をあてがわれた男が、脱出しようと試みるが、脱出できる最後の瞬間に外に出る勇気が湧かない、あるいは「閉じ込められた空間」に安らぎを覚えるという、「感動的な」物語でした。



情けないことに他の本の内容はあまり覚えていません。そこで、一番古い本からもう一度読み直すことにしました。昨日から『第四間氷期』を読み始めて、今朝読み終えました。この作品は、1958年に出筆されたものです。わたしは、1970年に文庫本になってから買ったらしいです。高校生の時に読んだみたいなの…。



ずいぶん昔に世に出た本ですが、現在の世界にとてもリンクしていることに驚きました。それは、今話題の「AIは人間の知性を超えるのか」や世界の温暖化のようなことです。



MITが編集出版している長く続いている科学雑誌があるのですが、2011年に有名なSF作家達に依頼して、未来のテクノロジーとそれがどのようにわたしたちの生活に実際に役立っていくかということについて意見を求めていました。つまり、SF小説は我々が現実に手に入れる前に、新しいテクノロジーを小説の中で実現しているからです。予言ですか(?)。



新聞記事によりますと、2050年までにはシンギュラリティが起こるという事です。AIは人間の知能を超えるということ。あと45年という説もありますが。しかし、わたしは例えAIあるいはロボットが人間以上の知能を持つ存在になっても恐れることはないと思っています。なぜなら、ロボットこそ人間の次の段階の進化だと思うからです。(もちろんそれを望む人々にとっての)。



人間は自然界には存在しないものを作り出して進化してきた。そして、自然に自らの運命を握られていることに我慢できない様子です。ヒトの「高貴な魂」は、肉体(自然)に囚われているのです。そこから逃げ出す道が、ロボットということ。人工による人間のための「究極の人間」――それがロボットです。









そして、話は元に戻って、このことが安部公房の『第四間氷期』とリンクしているのです。1958年にこの作品が書かれたなんて、なんと感動的!



さて、『第四間氷期』です。



先進国は人工知能を作り出した。もちろん日本も。で、それに何をさせたらいいのかがわからない。予算を得るために何かをさせなければならない。そのためにAIに未来を予知させることにした。そこに、なぞの団体が絡んで来るのです。彼らは胎児の段階で哺乳動物を処理し、水棲哺乳類を作り出しました。もちろん人間も。(しかし、日本の組織なので日本人だけです。興味あるわあ。)。そしてその水棲人の未来の姿を見極めるために、この人工知能に接触してくるという理由。



そこで、この本の題名通り「第四間氷期」が終わるのです。世界は、水没します。これは、人工知能が予測した未来の世界なのですが――。そこで、人類は水棲人を受け入れることが出来るのか。本からの引用です。



自然との闘いが、生物を進化させたことは確かです。―――しかし人類はついに自然を征服してしまった。ほんとの自然物を、野生から人工的な物へと改良してしまった。つまり進化を、偶発的な物から、意識的なものに変える力を獲得した訳です。―――次は人間自身が、野生から開放され、合理的に自己を改造すべきではないでしょうか。―――これで、闘いと進化の環が閉じる・・・もはや、奴隷としてではなく、主人として、ふたたび故郷である海に帰っていく時がきた・・・。



「だが、水棲人をそんなふうに認めることは、自分を否定することじゃないのか。地上の人間は、生きながら過去の遺物になってしまう。」

「耐えなけりゃなりませんよ。その断絶に耐えることが、未来の立場に立つことです・・・」



大部分の母親が、少なくとも一人は、水棲人の子供を持つようになったとき・・・水棲人に対する偏見が、本質をゆがめる恐れがなくなったときです。その頃はもう洪水の不安が現実のものになっていて、・・・・・・・水棲人を未来の担い手として認めるか、選ばなくてはならなくなっているはずだ・・・



たいへん長い引用になってしまいましたが、水棲人をロボットに置き換えれば、わたしの説も納得できませんか。この本の締め括りはこんな感じです。



親子喧嘩で裁くのはいつも子供の方にきまっている・・・たぶん、意図の如何にかかわらず、つくった者が、つくり出された者に裁かれるというのが、現実の法則なのであろう――。









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