2013年8月13日火曜日

ウォーターフロント・・・ケープタウン

『英語と旅する』のつづきです。





次の日の月曜日、予期していなかった休日が一日増えた。前日、ママがこの祝日には、マンデラ大統領がケープタウンで演説すると言っていた。わたしも行けるのと聞くと、

「もちろん広場でするから、誰でも行ける。でも、スリには気を付けた方がいい。それに、そんなアクセサリーを身につけていてはいけない。危険よ。」と言う。



わたしは職業柄シルバーのリングとかネックレスを身につけているが、そんな派手なものではなく高価なものでもない。宝石は付いていない、シンプルなシルバーだけのアクセサリーだ。マンデラ大統領には興味はあるが、ママが危険と言うならば町に近づくかないでおこうと決めた。



事前にガイドブックを調べて、行きたい場所のリスト・アップはしていた。まだここに来たばかりなので、一番簡単に行けそうな場所に行ってみることにする。ウォーター・フロントだ。ガイドブックによると、大きなショッピングモールのようなものがあるらしい。娘のアイリスに会ったので、どうやっていけばいいのかを尋ねた。



「ウォーター・フロントにはどうやって行けばいいの。」

「バスに乗って行けばいいよ。」

「バス停はどこにあるの。」

「バス停はないから、通りに出てバスが来たら手を振ればいい。」

「どんなバスなの。」

「小さなバンみたいなものよ。」

「それは、どこで見分けがつくの。」

「とにかく、なんでも手を振ればいいのよ。」

「???」

そんな会話が続いて、結局バスはあきらめた。ガイドブックによると、歩いていけそうな距離だったので、その日は歩いて行くことにした。





お天気の事を言い忘れていた。帰国後、アフリカだからということで、「暑かったでしょう」とみんなは言ったが、南アフリカ共和国は日本と同じ温帯モンスーン気候。ここに来たのは5月の中旬だったが、南半球は冬。でも、ケープタウンは年中18度くらいの穏やかな気候だとガイドブックは言っていた。実際、涼しいという感じ。つまり、ウォーター・フロントといっても、真夏のビーチを想像してはいけない。秋の潮風が吹く湾岸という感じだ。



ウォーター・フロントなので、海岸沿いの道を歩いて行けば着けると思い、とにかく海の方へ足を向ける。海岸沿いは公園のように整備され、道も立派な遊歩道だった。ジョギングをしたり、スケートボードを楽しんでいる人たちを見かける。乳母車を押している若いカップルや小さな子供たちが飼い犬と戯れている姿も見えた。ちょっと涼しかったがお天気は良く、道のりは楽しかった。しかしウォーター・フロントまで、結局40分ほど歩いた。



道は海岸線より少々高いところに位置していたので、ウォーター・フロントらしき所に着いた時、下の方に大きな倉庫のような建物がふたつあるのが見えた。そこがショッピングモールだった。ひとつが、一般的な食料品売り場、いわゆるスーパーマーケット。それから、さまざまなお店が並んだモール。もうひとつが、アーティスト・ヴィレッジのようにいろいろなアーティストたちのワークショップが並んでいるところだった。今日一日ではとても回りきれないと思ったので、今回はワークショップをパスして、後日またゆっくり見に来ようと計画する。





中に入ると、想像したより一段と大きかった。一階は、広い、広い食料品マーケットとフードコートのような小さな食べ物屋さんがたくさん並んでいる広場。それから、小さな子供たちが遊べるような遊戯具が並んだ広場があった。そして、2階はブティックなどのお店。先ずは、フードコートで食事をすることにした。海外に行き始めた頃は、もう何をするにもドキドキだった。このような小さなお店の場合は、メニューなどなく、たいていボードに手書きで書かれている。だから、食べたいものを食べるのではなく、とりあえず読めたものを注文する。

それから、カウンターで注文するファスト・フードなどは、先ずは、あたりの様子や人々の注文する様子を観察することから始める。



今回は、メキシカン・フードのようなお店を選択。列に並んで自分の番を待つ。少々込んでいたのでプレシャーを感じつつも、順番が来た。「シーフード・トルティーヤ」と注文を言う。無事、通じたようで目の前で、おばさんが調理を始めた。出てきたものは、なんだか「?」と言うもの。そうしたら、後ろに並んでいたおばさんが、「それは、シーフード・トルティーヤか」と言った。それで、わたしも勢いづいて「シーフード・トルティーヤ?」と聞いてみた。「そうだ」との答え。わたしは振り向いて、うしろのおばさんと目を合わせ「しょうがないね~」と目で合図をかわした。確かにシーフードだったが、トルティーヤではなく、ビチャビチャのピラフみたいなものだった。しかし、全部食べた。



それから、いろいろなお店を覗いてみる。特に変わったアイテムはないが、デザインや色調などがいかにもアフリカという感じで目を引く。しばらくブラブラしていると小さなガラス瓶をずらりと並べたお店があった。何かなと思う。中国の漢方薬のお店のような雰囲気で、どうもアフリカ土着の「漢方」を売っているらしい。つまり、ハーブかな。でも、蛇とか何かの小動物のようなものもガラス瓶の中に入っていた。レイ・ブラッドベリーの短編小説のようだなあと思った。



次に見たお店には、大きな甕が置いてあり、その中に一杯の石が詰まっていた。ピンククリスタルやオニキスやムーンライト等など。高貴な石ではないが、本物の石。「1Kg、・・・ランド」という札が立っていた。幾らかは忘れたが、たぶん五百円くらいだったと思う。それで、どうやって買うのかなと思い、店員さんに聞こうとすると、彼女たちはおしゃべりに興じていてわたしの方を見てもくれない。ここで、空港に続いて、第二の洗礼を受けた。つまり、店員さんは日本と違って、客に関心がないということ。「お客様」におかまいなしだ。しかしその時は、「わたしの英語の発音が悪いのか」とか、「日本人だからかなあ」と、ネガティブな感情を抱いた。甕のそばで、お弁当を食べている黒人の男性がいたので、「どういう風に買ったらいいの」と聞いてみた。彼は、話しかけられて、ちょっとビックリしたようだったが、「そこのビニール袋に好きなだけ入れてレジに行けばいいよ。」と教えてくれた。「ありがとう」とお礼を言って、袋に良さそうな石を入れてみる。袋に半分くらい入れたが、1Kgはなかったようで、レジに行くと三百円くらいで買えた。これでいろいろなシルバーアクセサリーができそうだと思い、とても満足、満足。



食料品売り場に行って、晩御飯を買って帰ろうかと思ったが、また歩いて帰るのかと考えると、美味しそうなものはいっぱいあったが、あまりたくさんは買えない。念のためアルコール売り場もチェックした。やはりホリデイだ、棚はチェーンと鍵でがんじがらめだった。出口付近の野菜売り場で、「Daikon, Chinese Radish」というサイン・コピーを見つけた。「大根は日本語だよ」と思って、売場の人にそう言ってみた。普段ならそんなことは言うはずもなく、ちょっと海外旅行という冒険をして、気分がウキウキしていたのだろう。売り場の人は、不審そうにわたしを見つめたが、わたしは、にっこり笑ってその場をあとにした。これからまた40分歩くのかと思うと憂鬱だったが、家までの道を引き返した。





つづく



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