2013年8月13日火曜日

伝統医療 in Africa



今日のトピックは伝統医療ですが、『コンゴ・ジャーニー』という本を読んでいて、思いつきました。



『コンゴ・ジャーニー』は、イギリス人の探検家Redmond O’Hanlonとアメリカ人動物行動学者Lary Shaffer 、コンゴ人の生物学者Marcellin Agnagnaの何やら怪しげな旅行記なのです。1990年頃アフリカのコンゴ人民共和国(現コンゴ共和国)に広がる未開のジャングルを探検し、ピグミーの言い伝えである幻の恐竜モケレ・ムベンベがいる湖Lake Tele を探し求める旅です。ほんの20年ほど前のアフリカのお話で、町に行けば道路があり、タクシーが走っているし、飛行機も飛ぶし、空港もある。兵隊は銃で武装している。しかし、そうしたきわめて現代的な光景と同時に、呪術や霊、占いといった存在がふつうに信じられている世界も息づいてもいます。一見、西洋の理性とか合理主義を体現していそうなイギリス人の探検家やアメリカ人の生物学者が、彼らもまた、心の奥には同じ魔術的な物が潜んでいると言う事。つまり、彼等は探検の出発の前に、呪術師のところへ行って、旅の安全を占ってもらうのです。





このアフリカの呪術師のエピソードで、以前新聞で見た「伝統療法士を政府も活用」という記事を思い出しました。南アフリカの記事です。アフリカでは、呪術師は単に魔術的な存在ではなく、民間医療の担い手でもあります。南アフリカは生活水準の高い国ですが、普通の人々はもっぱら、薬草や先祖の霊力を用いる伝統療法を頼りにしています。というのも質の高い私立病院は治療費が高く、公立病院には多くの貧困層が殺到するため混雑状態しているからです。人口4千800万人のうち2千700万人が伝統医療に頼っていると言われます。



記事は、薬草師(サンゴマ)のアニカ・ムコンドさんを紹介しています。その治療方法は、伝統的呪術師と同じく患者からは病状を聞きとらず、霊力が宿るとされる貝殻や小石、動物の骨をゴザの上にまき、その配置で病状を占うと言うものです。方針が決まると、植物の粉末を調合します。この道16年のムコンドさんが今までの呪術師と違う点は、南アフリカ随一の教育水準を誇るヨハネスブルクのウィッツ大学で講習を受けたという事です。彼女の薬草はプラスチック容器に綺麗に分類され整然と並べられ、またカルテも作られます。同大学は、現代医学の知識やエイズ予防、経営、法律などの知識を教える4週間の講習を始めました。教育水準の低い伝統療法士たちに講習を提供し、伝統療法と現代医学の距離を縮めようとする試みです。また、2007年には伝統医療法が成立し、伝統療法師の資格制度が準備されつつあります。



もともとサンゴマとは、霊感の強い人がなります。病気とか不幸なまたは幸運な出来事は、何らかの霊的な要因があると考えられているからです。祖先の霊とか呪いとかが原因であると。また、サンゴマは伝統医療のほかに、将来を占う事、お祓い、お清め、好運を呼ぶお守りを作ることもします。しかし、サンゴマになるにはそれ相当の修行が必要です。サンゴマの弟子となり、数年間修行を積み師匠に一人前と認められ漸く独立できます。修行は、薬草の取り扱い方、処方の仕方、霊感を用いて患者の問題点を突きとめること、占いの仕方などを学びます。つまり、彼等ももともと修行を積んだ資格ある人々なのです。



それでは、その効能はどうなのでしょうか。サンゴマが使う材料は、血行をよくするミントや、せきに効くヨモギ、鎮痛効果のあるヤナギなど千種類以上の植物です。伝統医療は科学的根拠がないと西洋医学からは敬遠されがちですが、もともと、医薬品の約7割は植物由来のもの。伝統的薬草がその効能を科学的に証明されてきたものです。中国や日本の漢方、ヨーロッパのハーブなども、同じく迷信だとか非科学的だとの誹りを受けましたが、今では現代医学と同等に扱われています。また近年、アフリカ自生する植物からエイズウイルスの感染を抑制する成分が抽出され、それは科学的にも証明されました。これは南アフリカで民間療法としてエイズ治療に用いられ、効果が確認されている植物です。



特にHIVの治療に関して、アフリカでは伝統療法師との協力関係が有効であると言われています。彼等がその地域で尊敬されている存在であること。つまり、信頼関係がすでに構築されているということです。また、彼等は患者の症状を観察し、カウンセリングもしています。これらの関係性は、免疫システムやストレスを和らげることなど、薬以上の効果も引きだします。また、安価でスピーディな治療ということも重要な点です。そのために、伝統療法師の一定の能力水準の確保が必要となります。従って、各アフリカ政府の伝統療法師の育成システムは効果的であり、また無形文化遺産ともいえる彼等の伝統的知識の保護にもつながっていきます。ウガンダのTHETA, タンザニアのTAWG, ザンビアのPATFなどの組織があげられます。



医者にもサンゴマにもいろいろな人がいます。よい医者、悪い医者がいるのと同様、よいサンゴマ、悪いサンゴマも存在します。しかし共通して言えることは、患者との関係性では。サンゴマは呪術師で、霊感とか呪術で病気を治すと信じられていますが、彼等は「良い医者」と同様、患者をよく観察し症状を見極め、経験的になんの病気か診断を下せるのです。現代医学は論理的ですが、伝統医療は経験主義です。科学的に証明はされなくとも、何千年もの歴史が証明していることです。





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